酒と鮓 梅軒(バイケン)

武蔵小山の鮓(すし)割烹と日本酒の店です【住所】目黒区目黒本町5-16-3☎03-5708-5542 水曜定休

「日本全国食べ歩かない」第六歩 「東京都 江戸開城(東京港醸造)」其の弐

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「食べ歩かない」第6歩「東京都 江戸開城東京港醸造さんの会の続きです。

割鮮 鯉洗い 鯉 煎酒 酢味噌 茗荷 大葉 大根 卸生姜

江戸時代に真鯛と並んで人気だった魚が鯉。皆さん泥臭いというイメージがある方が多いですが、ちゃんと泥を吐かせたりしたものはまったく臭みなんて無く、脂ののったしっかりとした身の食感で美味しいんです。

鯉は小骨があるので薄く切るか、かるく骨切して氷水で洗いに。

当時は醤油ではなく酢味噌で食べるか、煎り酒につけて食べるかでした。煎り酒とは梅干と酒、鰹節、昆布などを一緒に火にかけ、少し煮詰めて漉したものです。梅の風味と塩分のきいたさっぱり味のつけタレです。さっぱり味好きの江戸っ子のお好みの味って感じですね。

 

 

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鯉は川魚なので、もちろん泳ぎで仕入れます。鯉は丈夫で真水で運べたので、冷蔵設備や輸送に時間のかかった当時でも鮮度の良い状態で仕入れることが可能だったので、より重宝されたのではと思います。

卸すときには一度、包丁のみねで頭をぶっ叩いて脳震盪をおこさせてから〆て卸します。

ちなみに鯉こくを作るときは内臓と鱗はついたままが基本です。鯉のウロコは火を入れると柔らかいので食べれるんです。ま、大半の方にはウケはよくないんですが…(泣)

 

 

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焼物 牡蠣田楽 牡蠣 蕗味噌

昔は江戸前の海でも牡蠣は獲れたそうです。今とはずいぶん違いますね。当時は埋め立てもなく、海も綺麗だったんでしょう。鱧や鮪なんかもあがったそうです。

牡蠣は鍋で乾煎りし、串に刺して蕗味噌を塗りサッと焼き上げます。

蕗味噌と牡蠣の濃厚な感じが酸味のあるパラカセイといい相性でした。

 

 

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酢物 占地茸海苔酢 占地 もみ海苔 三杯酢

シメジのシンプルな酢の物です。海苔の香ばしい香りとミネラル感にクセのないシメジの味が良いです。多分当時は本シメジだったので、もっと味わい深いものだったと思いますが、今では本シメジはまず手に入らないので一般的に出回っているブナシメジで作りました。 

 

 

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煮物 大根煎出し 大根卸 浅葱

これは大根を生のまま胡麻油のみでじっくりと揚げて火を通し、上に大根おろしと浅葱をのせ醤油をかけただけという、これぞ江戸料理というシンプルで滋味深い一品。写真では伝わらないですが、生のまま揚げた大根は独特の食感で、いうなれば大根のコンフィという感じです。さらに大根の上にまた大根(おろし)をのせているのも、火の通った大根の甘い感じと大根おろしの生の感じとふたつの大根の味わいがあるのも特徴的。また味付けが醤油だけってのも江戸っ子らしいですな。生の大根を揚げるという行為だけで火を入れるのは結構時間がかかります。

 

 

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飯物 江戸鮓 鮪漬 小鰭酢〆 玉子巻 がり

江戸時代、関西のなれ鮓から派生してできた握り鮓はせっかちな江戸っ子には大変人気だったそうですが、当時はまだ米酢が高価なものだったのでなかなか庶民の口には入らなかったそうです。そこである人がなんとか安い酢を大量に造れないものかと考え、当時たくさん出ていた酒粕から酢を造ることを発明しました。これは色が赤っぽいので赤酢と呼ばれ、安価でそれでいて鮪などの味に合うということで庶民の間で人気になり、江戸の巷では握り鮓が大流行しました。この赤酢を発明した人こそあの「ミツカン」の創始者だそうです。スゴイねミツカン!この赤酢を使った庶民向けの握り鮓のシャリが赤いのに対して、高価な米酢を使ったシャリが「銀シャリ」と呼ばれる所以なのではと僕は考えます。

冷蔵設備のない当時、鮓のネタにはすべて処理が施されていました。火を通したり、酢〆したり、塩で〆たり、醤油で漬けにしたりと。少しでも涼しい所に置こうと、桶に入れたネタを井戸の中、水ギリギリのところまで下げて置いたりなどの工夫もしていたそうです。

写真わかりにくいですが、当時の鮓はお稲荷さんくらい大きかったそうです。ちょっと小腹がすいた時に屋台の鮓を2~3個食べたら十分だったのでは。そもそも1貫の「貫」は目方の「貫」だそうで、だいたい40~50gで今のお鮓の2個分くらいの重さです。そしてこの握り鮓は花街のおねぇさん方の手土産にも喜ばれたそうですが、お化粧をしたおねぇさん方には少し握りが大きかったらしく1貫を切って2つにしていたそうです。その名残が回転寿司などにある1皿2個(1貫の重さ=2個)のルーツだそうです。

鮪の赤身は叩きにして醤油漬けに。当時の鮪は安価で下魚でした。「おめぇ鮪なんか喰ってんのかよっ」って感じだったそうです。それを上手に美味しくしたのがこの漬けの握り鮓。これにより鮪も市民権を得たそうです(まだまだ赤身に限りますが)

コハダは塩で〆てから酢〆に。当時は2日間ほど塩で〆ていたらしく、非常にしょっぱいものだったそうです。今回はそこまではしませんが、軽く薄塩をして1日おき、酢で〆てみました。鮓に醤油を塗って出すというかたちにしていないので、元々の味をしっかりとつけてみました。

 

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当時の江戸の鮓の絵です。下のほうに海苔巻きも見えますが、黄色の玉子巻が前面にあります。シャリに刻んだ干瓢と海苔を混ぜ、薄焼き玉子で巻いたものです。

今回はウチでいつも焼いている海老のすり身の入った厚焼玉子を薄く焼き、それで巻いてみました。お客さんのウケが非常に良かった一品です。子どもにも喜ばれそうな味です。

 

 

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留椀 納豆汁 叩き納豆 小松菜 豆腐 芥子 江戸味噌仕立

江戸っ子一番人気の味噌汁がこの納豆汁だったそうです。叩いた納豆に江戸野菜でもある小松菜と豆腐を入れ、江戸味噌で味をつけ、風味に溶き芥子を少々。納豆はよく練ってから入れると香りと味がよく出て美味しいです。

今では造るところが少なくなった江戸味噌。味噌は本来「手前みそ」なんて言葉があるくらい普通に家で造るものでした。ウチの田舎でも大きな樽で毎年味噌を造っていました。ですが、仙台味噌など多くの味噌は発酵&熟成で食べられるまで1年以上の時間がかかるものが多く、当時の江戸の狭い長屋事情では1年もの間大きな樽を家に置いておくスペースがなかったのだそうです。そこで一般家庭に代わり味噌を造って売る味噌屋ができました。それでも江戸の庶民分の樽など1年以上置いておくにはかなりのスペースが必要です。そこで考えられたのが、少ない発酵時間で出来上がる味噌。そうすれば場所が少なくてもすぐに味噌ができるので、せっかちな江戸っ子にはありがたかったそうです。これが江戸味噌のはじまりだそうです。江戸味噌は通常の味噌よりもかなり多くの麹を入れ発酵させ、2週間ほどで食べられるようになります。発酵時間が短い分、賞味期限も短いですが当時はその短いサイクルが庶民の暮らしに合っていたのだと思います。江戸味噌の味はあっさりとした味で麹の甘みがほんのりとあるクセのない味噌です。

 

 

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お香々 三ツ輪漬 大根 柚子 唐辛子

香の物ではなく、あえてお香々(おこうこ)と当時を想って書いてみました。

三ツ輪漬け(みつわづけ)という当時のお漬物です。大根、柚子、唐辛子の3つを輪切りにし、酒と醤油を煮切ったもので漬けたシンプルな漬物。食べるのは大根だけですが、柚子の酸味と香りがほどよく大根にしみて、唐辛子の辛味もいいアクセントになっています。酒のアテにもお茶請けにもよいこの漬物、個人的に気に入ってます。最近、店でこの漬物を刻んで細巻きにしてます。ちょっとした箸休めにも口直しにもなる細巻きです。

 

 

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合計3回やらせていただいた今回の「東京都 江戸開城」の会。本当は東京23区で2件目の酒蔵だったのですが、会の最中にもう1件ある北区の丸真正宗さん(小山酒造)が今月いっぱいで日本酒の製造をやめられるというニュースが入りました。残念なお知らせです。23区では唯一の酒蔵になってしまった東京港醸造さん。新たな東京の味として頑張ってほしいです。

そして杜氏の寺澤さん、近いとはいえ造りの忙しい中の参加ありがとうございました。東京の酒ということで、参加された皆さんも興味深い話が聞けたと思います。

僕はといえば今回の江戸料理に関して、図書館などでいろいろ文献や本で調べて想像で作りましたが、非常に勉強になりました。シンプルながらも素材の組み合わせや調理法で奥深い味わいを出す江戸料理に日本料理の本質を垣間見れた気がします。

東京港醸造さんの会はまた秋くらいに開催したいと思っています。次回は「剣客商売」や「鬼平犯科帳」に出てくる江戸料理を再現した「池波正太郎の料理」なんかをやりたいですね~。

 

3月10日(土)の「日本全国食べ歩かない」第8歩目「群馬県 浅間山の会にまだ少し空きがあります。ご興味ある方は是非ご連絡ください。

 

  酒と鮓 梅軒